僕は、自分の人生はなかなか苦しいものだと思っていました。
営業マンとして、そこそこの業績をあげているものの、
どこか満たされない思いがありました。
家に帰れば、親のつくった借金を返済しているから金銭に余裕もなく、
妻に小言をいわれながら、ひあたりのわるい中古マンションで、わがままな一人息子。
俺って、なんのために生まれてきたのかな。と思っていました。
妻のことも子供のこともとても愛している。仕事も好きだ。
でも、結果はいつも、どこかさみしい悲しいものがかえってくる。
心が、なかなか満たされない。
だけど希望は失っていませんでした。
いつか、僕が生まれてきた理由みたいなのが、わかるときがあると思っていたんです。
それは確信めいた感覚で、その感覚の中にいるときはとても幸福感がありました。
転機は突然訪れました。
仕事に向かう途中に、乗用車にかすられて、転倒し、手首をねんざしてしまいました。
その時上司が病院までつきそってくれ、治療を受けた後、少しゆっくり話すことができました。
ちょうどその日の朝、僕は妻と、親の借金のことで大喧嘩をしていました。
なぜあなたがそこまで親の面倒みなくちゃならないのと、妻にヒステリックに怒鳴られ、
僕も感情的に言い返してしまった。
病院から、妻にメールしたけれど、返信もどこか冷たいように感じられて、
手首の痛みもあって、
上司と二人の時に、一気に感情が爆発してしまった。
「僕は働いても働いても、親の借金で金がありません。
妻とも最近何を話しても喧嘩ばかり、子供もなつかない。
今日もけがしてしまって、本当についていない。一生懸命頑張っているのに…。
仕事も家族も愛しているのに、
僕の元には、何も残らないし、あたたかいものがない。
さみしいのです」
、と。
自分でも不思議なくらい、スラスラと色々な気持ちを話してしまった。
僕は自分の気持ちを、人に見せるタイプではないのに…。
上司は黙って聞いてくれて、
しばらく後、
ふと、突然、
「Moor君。一緒に瀧行に行こう。きっと君なら、いろいろなことがわかると思うよ」
と言いました。
僕はあまりの突然のお話にとても驚きました。
「瀧行ですか?あの、AKBの子がCMでやってた…」
上司は少し笑って、
「まあ、そうだけど、もっと違う、真剣な修行ができるんだ。Moor君、今苦しいだろうけれど、私も昔は君と同じか、それ以上にいろいろと背負っていたんだよ」
と言いました。
その発言にも僕はかなりびっくりしました。
なぜならその上司は、
中途入社で数年前入ってきたけれど、ものすごい成績を上げ怒涛の出世、
人の悪口も言わないしルックスも清潔で背筋の伸びた方で、しかも愛妻家で、
まあ、社内のスターみたいな上司なのです。
苦労の影とか、そういうものがまったく感じられない人です。
僕が、ハトが豆鉄砲くらったような顔をしていたのでしょう。
上司はたまらずおかしそうに、
ハハハハと大きな声で笑って、
「とにかく一度、一緒に行こうな。」
と、優しく言ってくれました。
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そんなわけで、僕は導かれるように、
瀧行に行くことになりました。
あの、スター上司が、僕に直接そうやって、プライベートの場所に誘ってくれたのが、
とても光栄だったし、
僕も上司みたいな人に近づけるのか試してみたい、くらいの気持ちでした。
瀧行の朝。僕が楽しみに支度をしていたら、
昨日までは「楽しんでいってらっしゃい」と言っていた妻が、
なぜか起きだして突然キレました。前代未聞のキレっぷりです。
「こんなに家計が大変な時期に、瀧に行くなんてバカなんじゃないの!?瀧なんていってる暇があったら息子を公園にでも連れて行ったらどうなのよ!親の借金も返せない男が、自分の時間持ちたいなんて百年早いわよ」「ギャー!」←ほんとうに叫んだ…。
などと言って、洗濯物をばんばん投げつけてきました。
「上司が、瀧行のお礼は無理なくで強制じゃないっていってたから、千円くらいのお礼でさせてもらうつもりだよ。瀧の場所も遠くないし、夕食までには帰ってくるよ」
「なんなら、君たちも一緒にくる?」
と、声をかけても説明しても効果ない。
瀧行にお金がかからないとわかったら今度は、
「私がいってるのは金の話じゃないのよ!!」とか言い出して、もう支離滅裂です。
手が付けられないので、これは、今日は瀧行は無理だなと思い、
上司に、断りのメールをしようと思いました。
その瞬間、上司からメールが。
そこにはこう書いてありました。
「Moor君、おはよう。来るとき、いろいろ大変になるかもしれないけれど、
思いやりを忘れず対応すれば大丈夫です。来てくださいね。」
え!?なに!?上司、俺のこと見てるみたい!!\(゜ロ\)
と、本気でびっくりして、
ふと妻の方を振り向くと。
さっきまで大暴れしていた妻が、泣きながらしゃがみこんで、
「Moor君、ごめんね~。あなたが瀧にいくのを嬉しそうにしているから悔しくて、からんじゃったの。楽しんで行ってきてね~。」
と、シクシク泣き始めたのです。
なにこの展開!?\(゜ロ\)と2重びっくりして。
思いやりを忘れず、という上司の言葉通りに妻に接したら、
すごく機嫌がなおり、
なんと
「体が冷えちゃいけないからね」と水筒にあたたかいコーヒーまで入れて持たせてくれて(+o+)…
無事出発となりました。
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瀧場近くの駐車場で待ち合わせしていたので、
到着すると、そこには、上司と、数人のお仲間が待っていました。
初対面なのに、みなさんすごくやさしい。
僕が、朝の妻との顛末を話すと大爆笑され、
「それはね、縁があるってことなんですよー」
と言われました。
何の話!?俺、大変だったんだけど!?\(゜ロ\)
でもまあ、みなさんと話すうちに僕も気が楽になって、気が付けば笑い話になっていました。
瀧行は、とにかく気持ちがよかった!!!
清い水の中に、お経をいいながら、身を投じる心地よさ。
瀧の中から、虹も見えた。本当に美しかった。
こんな美しい世界があるのかと、
僕は息を飲んだんです。
「ひとつだけ、瀧の中で神様にお願い事をしてくださいね」
と言われていたので、
僕は、
~家族でもっと仲良く円満に暮らせますように~
と、願いを込めました。
上司が、瀧に打たれている姿は男らしかった。
僕は写真を見せてもらったけど、猫背でかっこ悪かったですね。
今はがんばって姿勢直してます。
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さて、瀧行を終えて自宅に帰ると…。
妻が、…。満面の笑顔です。
「瀧行どうだった!?Moor君が楽しかったら、私もいきたい!」
ですって。\(゜ロ\)(/ロ゜)/なにこの展開!?
そして、
「朝暴れちゃってごめんね!」
と言って、食卓には、見たことのないような御馳走。
「お前、これ、こんな御馳走どうしたの!?食費大丈夫なの!?」
と僕は思わず聞きました。
すると妻が、なんといったと思いますか…?
「いつもありがとう。たまには、お金気にせずに、美味しいものを食べようね」
ですって。
もう僕、号泣です。妻も号泣です。
息子は、お父さんお母さんなんで泣いてるの?と号泣です。(笑)
そして僕は泣きながらはっきりとわかったんです。
僕は、ひとりよがりで、妻の苦しみに目を向けてなかった。
自分の苦しみばっかり、見ていました。
その僕の心が、家族の雰囲気を悪くしていたんですね。
「妻ちゃん、ごめんね。借金を早く返して、苦労をかけないように頑張るよ」
「瀧はとても楽しかった。次は連れていくからね」
心からそう言いました。
夜、ベッドの中で、この一日のありえないことの連続に目がさえて眠れず、
上司に、
感謝のメールを打ちました。
上司からは、
良かったです。また一緒に行きましょう。
それだけでした。
でもその言葉がとても暖かく感じられて、
僕はまた泣いてしまいました。
瀧の中で願った思いがもしかしたら神仏に届いて、
こんな一日が訪れたのだろうか。
そう思うとまた涙が出ました。
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僕は次の日から、仕事を猛然と頑張りました。
僕のために御馳走をつくってくれた妻の顔が思い浮かび、奮起しました。
その頑張りは、ほどなく成果に結びついていきました。
休日には妻と息子も連れて、上司に何度か瀧に連れて行ってもらいました。
二人ともすごく瀧行が気に入って、行くたびに、また行きたいと大騒ぎです。
そして家族の雰囲気は、同じ「瀧行」を通じて、あたたかいものに変わっていきました。
やがて僕は上司に招かれ、護摩を焚いていただき、
妻と息子とともに、
正式に、行者として入会をすることになりました。
「自然の生命(かみのいのち)」との出会い。
僕はまるで生まれ変わったように明るい気持ちになりました。
今日はここまで(^^)